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調査員のおすすめの逸品№386 遺跡の“堆積物”から過去を読み解く―粒度標本(りゅうどひょうほん)ってなに!?

粒度標本との出会い

 私が粒度標本という言葉に初めて出会ったのは、京都府京丹後市にある老田遺跡の調査の時でした。この遺跡では、当初は自然堆積層だと判断した下層から、弥生時代の自然流路が複数確認されました。地形が極めて複雑であったため、調査の進め方にも戸惑いが生じ、当時の私は遺構の判断に十分な自信をもてずにいました。

 その状況のなか、現場視察に訪れていた地質学の専門家でもある辻康男氏(現:京都府埋蔵文化財調査研究センター)に相談したところ、粒度標本に注目して検討してみてはどうか、というアドバイスを受けました。この助言を受け、粒度標本を手にしながら堆積層の砂や粘土の大きさなどを観察し、土層断面にみられる変化と照らし合わせつつ、自然流路の検討をすすめました。

 その結果、それまで感覚的にしか捉えられていなかった遺構の性格を、粒径という明確な指標を通して整理・解釈することが可能となりました。この経験を通じて、粒度標本は遺跡の成り立ちを考えるうえで欠かすことのできない調査道具であると、私は認識するようになりました。

粒度標本とはなにか

 では、粒度標本とは何でしょうか。結論から述べると、堆積物のなかにある砂や粘土などの大きさや割合を確かめるための標本を指します(那須・趙2003)。砂つぶは大きさで区分されますが(図1)、大きさごとに選び出された砂つぶを貼りつけたものを粒度標本と呼んでいます(図2)。発掘調査においては、風や川などの自然のはたらき、あるいは人の活動によって運び込まれた砂や礫、泥などの堆積物を観察する際に役立てています。

土層断面には過去の人びとのくらしの痕跡だけではなく、洪水・土砂崩れといった自然災害の記録も、長い時間をかけて積み重なっています。こうした土地の履歴を読み解くためには、土層断面を正確に記録として残していく必要があります。その際、基礎的な調査ツールの一つが「粒度標本」となるのです(図1、図2)。

図1
図2

なぜ、砂や小石の大きさが大切なのか?

 水や風などの自然の力、あるいは埋め立てなどの人間の活動によって、堆積物は運ばれ、蓄積していきます。その際、運び込まれてきた砂や粘土の大きさや割合などを調べることで、どのような力が働いて堆積したのかを推測することが可能となります。この粒度の記録は、堆積物の運搬や堆積のエネルギーについて判断していく際に、最も基礎となる情報となります。具体的には水や風といった自然の作用によって移動したものなのか、あるいは人間の活動によって形成されたものなのかを見極める手がかりとなります。ここでは、自然の力によって堆積物が移動した事例を中心に説明します。

 水の流れがあった環境  水の流れが速い場所では細かい砂や粘土が流されてしまい、粗い砂や礫が川や溝の底を転がりながら堆積していきます。一方で、細かい砂は比較的緩やかな流れのなかを浮かびながら運搬され、水深が浅くなり流れが弱まった地点で堆積していきます(図3)。

図3 塩津港遺跡 南堀断面図(横田2019)

 水の流れがない環境  一方で、水の流れがほとんどない場所では、肉眼では判断しにくいほどの細かい砂や粘土粒子が主に堆積していきます。こうした粒子が多く含まれる場合、その地点は沼や湿地などの比較的水の流れがゆっくりであったと推測することができます(図4)。

図4 ブタイ遺跡 大溝右岸肩部遺物包含状況(大東・重田2019)

私にとっての粒度標本とは

 地層を構成する堆積物の粒子を詳細に記録していくことで、その土地がどのような環境のもとで形成されてきたのか、すなわち土地の履歴を復元することが可能となります。こうした土地と人々とのかかわりの変遷が発掘調査報告書に記録されています。 

 私にとって粒度標本は、単に粒径を知るためのものではありません。遺跡と向き合いながら、その場所がどのようにして形成されてきたのかを考える際の判断基準となる「ものさし」になっています。

謝辞   本文を執筆する際に辻康男氏には多大なるご助言を頂きました。未筆ながら感謝の意を表します。なお、冒頭の写真(アイキャッチ画像)は滋賀県彦根市松原内湖遺跡で見つかった自然流路の土層断面です(小島・鈴木2022)。

参考文献

小島孝修・鈴木康二2022 「一般国道8号米原バイパス建設に伴う発掘調査報告書」4 松原内湖遺跡 滋賀県教育委員会・公益財団法人滋賀県文化財保護協会

大東悟・重田勉2019『竜王町埋蔵文化財発掘調査報告書』第16集 ブダイ遺跡 竜王町教育委員会事務局生涯学習課 公益財団法人滋賀県文化財保護協会

横田洋三2019 『大川総合流域防災に伴う発掘調査報告書』塩津港遺跡 滋賀県教育委員会・公益財団法人滋賀県文化財保護協会

那須孝悌・趙哲済2003「第2節 地層の見方」『環境考古学マニュアル』

(調査課 川嶋 泰輔)

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